vol.5「シークレットサービス」
今回は昔話(?)をひとつ、ふたつ。まだ、奥さんがギャラリーに勤めていた頃の話しです。
その日、土ものの湯呑みをひとつ買って帰ってきた奥様は夕飯が終わると食後にお茶を入れました。買ってきたばかりの湯呑みをサッと洗い、湯呑みにお茶を注ぐと「ん〜」と一人納得していました。しばらくテレビに目を取られて、さっき入れた湯呑みに目を戻すと、湯呑みは「コースターの様になった水たまり」の上に置かれていました。僕は笑ってしまいました。「そんなの見たことない。買ってきた日に水漏れしてるじゃん。」
すっと立った奥さんは、今さっきごはんを食べ終わったばかりなのに、又、お米を研ぎはじめました。「ご乱心カナ」と僕はちょっとかわいそうになりました。ところが、その研ぎ汁を鍋に入れ、次にその湯呑みを入れ、おまけに火を掛けて沸騰させているじゃありませんか。(2〜3分ぐらい煮込んだ)「こりゃ、いよいよじゃん」と思った僕を尻目に奥さんはこう言いました。「たぶん、これで水漏れは止まる」その顔は自信に満ち満ちていました。マジックのような裏技は見事に決まり、何故かお茶はその日以来、一滴も漏れてきませんでした。商売とは恐ろしい、と炊き上がったご飯をもう一度食べる僕でした。
ある日曜日。
結婚する以前、「今日はギャラリーに行くから」(デートできないよ)という彼女(奥さん)の言葉に、「じゃ、ついて行くよ」と一緒に行った事がある。知らない人にとっては、ちょっと不思議体験。
その日の場所は銀座。
賑やかな表通りとはうって変わって、静かな裏通りから裏通りへと進んでいく。ギャラリーに到着するや否やグルグルと店内を見て歩く。早足の様なステップで、時にはハタと止まり、良く観察する。又、ステップを踏み出す。器を持つ時は必ず両方の手で持ち片手では絶対に持たない。グルッと店内を廻って芳名帳に名を残し、そのギャラリーを後にする。
「なんだ。もう、終わったんだ」と思うと次のギャラリーに向かう。4軒、5軒・・(いつ終わるんだろう)芳名帳に書き込む時、横から覗いていると何軒目かの時に奇妙な事に気付く。いくつかの名前が、行くギャラリー行くギャラリーの芳名帳に書いてある。我々の前にある幾つかの名前・・。
そして、又、少し経つと気付く。「あれ?あの後ろ歩いている人、さっき見た人だ。」数分後、あらら、今度は前を歩いている。よく観察していると、そんな人達が何人かいる。ある距離を保ちながら歩く様子は、まるでSPに守られている感じ。そこで彼女に聞くと、「あの人もギャラリー廻りしてるんじゃない?」「全部、同じじゃないけど、だいたい行くところは決まってるから」「ぎゃ、ギャラリー廻り? 行くところはだいたい決まってる??」
聞いてみれば納得する。同じ様な、うつわのギャラリーはあるのに、入る所と入らない所がある。これが、好きな人は自分なりに持ってる「そこに行けばいいものに出会える可能性が高い」ギャラリーだと知った。
十数軒を廻った後、オープンカフェで疲れた足を休めながら、「あのお店のあれがよかったよね」と話しかけてくる。そんなの覚えてないよと思い、(くやしいから)「あっちの方がよかったよ」と、適当に覚えているうつわを言い出す僕のうつわはちゃんと覚えている彼女に、恐ろしい奴だと内心恐怖する。(あんなに速く、あんなにたくさん見たのに・・)
「今度の休みは青山と赤坂のギャラリー廻りだけど一緒に行く?」とニコニコしながら聞く彼女に、こっちもニコニコしながらギャラリー廻りの日はやっぱりデートはやめようと、黙ってアイスココアのストローをくわえる。
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